思い出の地前宮で里曳きに向けて練習する竹森さん
長野県諏訪市木遣保存会長の竹森笑子さん(67)=同市湖南=は、半年ほど前から日の出とともに毎朝ほぼ休むことなく、諏訪大社上社前宮(茅野市)に足を運び、守屋山に向かって木やりを響かせている。「地道に練習を続けていないと、木やりにふさわしい声が出なくなる。夫との思い出がたくさんある前宮に通い、いい木やりに必要な心と体と技を磨きたい」と気持ちを込めている。
竹森さんが前宮に通うようになったのは、1年以上前になる。夫の体調が回復するよう、毎朝祈願した。竹森さん夫婦にはたびたび手作り弁当を持って前宮を訪れ、すがすがしい景色を楽しみながら味わった思い出がある。
御柱祭をより強く意識するようになった昨年10月ごろから参拝に合わせて木やりを練習するようになり、やがて日課となった。大雪などよほどの荒天の日を除けば、冬の寒い朝も前宮を詣で練習してきた。
前宮本殿の裏側に立ち、新鮮な空気を腹いっぱいに吸い込んで守屋山に向かって響かせる。「山の神様、お願いだ」「元から末まで、お願いだ」…。左側から当たる朝日を受けながら返ってくるやまびこを聞き、喉の調子を確認する。
「きょうもまずまずね」と柔和な表情を見せた竹森さん。「木やりはね、練習しなかったことがすぐにばれてしまうものだからさぼれないのよ。ただね、朝の澄み切った空気の中でお山に向かって木やりをすると、なんだかいい出来のような気持になるんです」。毎朝、1回1回を全力で歌い、出来栄えを振り返る練習を重ねる。「会員に一言いうには、自分自身がそれなりに努力していないと」と気持ちを引き締めていた。
木やりの前には、必ず行う参拝。家族の健康、ウクライナ戦争の早期終結、世界平和、そしてコロナの終息と、素晴らしい里曳きができるように。「きょうもたくさんお願いしました」とほほ笑んでいた。
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