観光庁が主催した訪日観光再開に向けての実証ツアーで、下諏訪町の諏訪大社下社秋宮など県内各地を巡ったタイからの旅行者ら=5月29日、諏訪大社下社秋宮
政府は10日から、訪日外国人観光客の添乗員付きパッケージツアーの受け入れを再開する。長野県内では5月からツアーの実証事業が行われており、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて約2年間にわたって途絶えていた海外誘客(インバウンド)の機運が再び高まることが予想される。受け入れ対応に関するガイドラインも策定され、諏訪地域ではコロナ流行前に積極的な誘致を進めていた市町村からは再開を喜ぶ声がある一方で、依然として続くコロナ下での受け入れを不安視する声も聞かれる。
■円安傾向で 海外誘客追い風
諏訪地方観光連盟によると、コロナ流行前、諏訪地域の訪日外国人旅行客の大半は中国、台湾などアジア圏からの旅行客だった。諏訪地域全体での訪日外国人旅行客の宿泊者数は、航空路線の拡大やビザの取得要件が緩和された2015年が7万5696人と最多だったが、以降は減少傾向にある。
新型コロナの流行前から海外誘客に力を入れてきた市町村は、受け入れ再開に期待を寄せる。ピクトグラムを用いた標識などの準備を進めてきた下諏訪町の宮坂徹町長は「欧米を中心に観光の形が一過性の観光から滞在型へと変わっていくと思うので、町の歴史、文化をゆっくり見てもらえるようアピールしたい」と前向きな姿勢を示す。
茅野市のちの観光まちづくり推進機構(DMO)の熊谷晃専務理事(同市地域創生政策監)は海外誘客の追い風となる円安傾向にも触れ、「1棟貸しの古民家宿泊施設『ヤマウラステイ』、地元に根差した体験企画『ちの旅』などの里山観光は欧米の富裕層向けに活用できると考えている。円安はインバウンドによる外貨獲得にはメリットが大きい」と話す。
■団体客利用 当面は下火予想
一方で「政府がガイドラインを作ったからといって、すぐに何かするわけではない」とする市町村も。中国、韓国、台湾からの団体ツアーを多く受け入れてきた諏訪市は当面、団体客の利用が下火になることを予想。19年に同市を訪れた観光客数は国内旅行者約60万人に対し、訪日外国人は約3万人。外国人旅行者への依存度が低かったことから、受け入れ再開の影響は限定的とみる。
東京五輪・パラリンピックの観戦を目的に来日した外国人個人客を誘致しようと、JR新宿駅構内のインフォメーションセンターに観光PRのためのブースを設置してきた同市。今後も個人客の獲得を目指すが、市観光課職員は「コロナが収束しない限りは動けない。インバウンドというより、日本人でも外国人でも楽しめるベースづくりに力を入れる」と語る。
訪日外国人旅行客と直接接する宿泊施設従業員は、受け入れ再開を歓迎しつつ、万全な感染対策ができるかを案じる。諏訪、茅野両市でホテル、旅館を経営する親湯温泉の従業員は「マスクを外す、外さない問題がある。宿泊客全員の安心安全を守るため、外してもいい場所の基準を明確にしてほしい」と目先の不安を話す。
諏訪観光協会の浅井学専務理事は、世界的な観光地のない諏訪地域では知名度向上のため、戦略的な海外誘客がカギとなると指摘。東京、名古屋、大阪などを巡る外国人旅行客に人気の”ゴールデンルート”の利用者が立ち寄る場合などを想定し、ターゲット層に合ったプランを売り出すことが旅行客数増加につながると強調する。
その上で「6市町村が連携し、諏訪の観光資源のブランド力を高めることが必要。県のモニターツアーに寄せられた参加者のコメントを参考にしたい」と話した。
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