南アルプスの眺望が楽しめる町内の空き家を取得し、主に2階部分を改修している渡邉穣さん。「骨格はそのままに新しくするのが好き」と話す
長野県富士見町の移住・定住相談室「富士見ウツリスムステーション」で、空き家所有者からの相談が増えている。移住希望者の増加で空き家の需要が高まる一方、供給が追いつかない状況だったが、昨春の固定資産税納税通知書に空き家相談の案内文を同封したところ、売却や賃貸に関する相談が急増。町を介して契約に至ったケースも増えている。ただ、提供可能な空き家は依然不足しており、引き続き掘り起こしに力を入れる。
JR富士見駅舎内にある同相談室は2021年6月に開設。初年度は380件の移住相談を受けた。一方で空き家相談は伸び悩んでいたが、2年目の今年度は14日現在で69件。昨年4~6月に集中しており、同封チラシの効果があったという。
「息子や娘も住まないので手放したい」「わが子に負担を掛けたくない」「処分したいが、何から手をつけていいか分からない」と内容はさまざま。所有しているだけで水道光熱費はかかり、昨今の値上げも処分を検討する一因になっていそうだ。
契約手続きなどは県宅建協会諏訪支部の富士見分会が担うが、空き家相談の増加につれ、町を介して成約に至った物件も増加。今年度は22件が成約または成約見込みとなった。空き家を賃貸物件に再生するケースも。賃貸は移住希望者に特に人気があり、わずか1週間で借り手が決まった物件もある。
雑誌「日経トレンディ」の副編集長などを務め、現在は作家・ライターの仕事をする渡邉穣さん。同相談室を介して築40年の2階建ての空き家を購入した。柱や梁の位置は動かさず、友人の大工と自身で2階を改修。壁と天井に木材を施し、こだわりが詰まった夫婦の書斎と、長男が帰郷した際に寝室にできるスペースを設けた。
「2階は令和、1階は昭和の家」と渡邉さん。自身の設計で2階への棚階段は作ったが、台所や居間、和室がある1階はほとんど手を付けていない。家の歴史、住んでいた人の思い出を継ぎたいという気持ちがある。
同相談室は今春発送の通知書にも案内文を同封し、空き家の相談や情報提供を呼び掛ける考えで、町の空き家改修補助金も周知する。相談員の五味琴美さんは「活用されると、家はよみがえる。渡邉さん一家のように思いを大切にして暮らす方々や改修事例を、空き家所有者の方々に向けても発信していきたい」と話している。
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