駒ケ岳に設置した保護用のケージにライチョウの家族が入った段ボール箱を入れるスタッフら(代表撮影)
中央アルプスで国特別天然記念物ニホンライチョウの「復活作戦」に取り組む環境省は10日、動物園2園で繁殖したライチョウ22羽の野生復帰を目指し、中ア駒ケ岳に成鳥6羽(雄1、雌5)とひな16羽を移送した。動物園で繁殖させたライチョウを野生復帰させる初めての試みで、移送したライチョウは、1週間ほどケージで高山環境に慣らし、順次放鳥する。
復活作戦は2018年夏、中アでは絶滅したとされていたライチョウの雌1羽が発見されたことがきっかけ。絶滅危惧1Bからのダウンリストを目指し、21年から第2期保護増殖事業実施計画を策定してライチョウの個体群復活に取り組んでいる。同年夏には野生繁殖した2家族を長野市茶臼山動物園と栃木県の那須どうぶつ王国に移送。同年冬に雄同士を交換し、今春繁殖を始めた。6月末からひなのふ化が始まり、那須で3家族が繁殖に成功。今回は那須の3家族19羽に加え、茶臼山の成鳥3羽を野生復帰させる。
移送は、駒ケ岳周辺を真っ白なガスが覆う天候不良の中で行われた。3家族を乗せたヘリは午前11時10分ごろ、那須を出発。その後、麓の黒川平で茶臼山の個体と合流し、天候の回復を待った。ライチョウをロープウエーで搬送することも視野に入れた午後2時25分、駒ケ岳の天候が一時回復し、ヘリの離陸をゴーサイン。同2時45分にガスを切り裂いてヘリが頂上山荘付近に着陸し、ライチョウが入った五つの段ボール箱を運んだ。
すぐにライチョウは駒ケ岳周辺の4カ所に設置された保護ケージに家族ごと移送。ライチョウたちは与えられた餌をついばむなど元気な様子が見られたという。
復活作戦を総括する中村浩志信州大名誉教授は「ケージ保護での域内保全に加え、動物園での域外保全で繁殖・増殖させる前例のない困難な事業となったが、成し遂げることができた」手応えをにじませた。加えて「従来の飼育と異なり、巣作りから育すうまでの繁殖の過程を経験。今後のライチョウ研究の大きな一歩となった」と語った。
放鳥により、中ア全体のライチョウの個体数はひなを含め約100羽が生息することになるとみられる。
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