国境なき医師団のメンバーとしてパキスタンに赴任する下野理紗さん
長野県伊那市日影の菜の花マタニティクリニックに勤務する助産師、下野理紗さん=同市西箕輪=が今月、民間非営利の医療人道援助団体「国境なき医師団」のメンバーとしてパキスタンの都市ペシャワルへ赴任し、9カ月間にわたる出産のサポート事業に携わる。下野さんは「任地は宗教が産科医療に大きな影響を与える国。妊婦さんをサポートしながら宗教とお産の両立の道を模索したい」と話している。
下野さんは大学を卒業後、6年間の病院勤めを経て青年海外協力隊に志願。2014年から南米ボリビア、オセアニア・パプアニューギニアに赴任し、現地で産前産後ケアなどに従事した。その後、国境なき医師団のメンバーとしてアラビア半島南部のイエメンでの活動に携わった。今回はペシャワル市内の病院が活動拠点となる。
ペシャワルは19年、アフガニスタンでの医療活動中に銃撃され、死去した日本人医師中村哲さんが初めて海外で医療活動をした都市。下野さんは「中村さんと同じ舞台に立てることがうれしい」とし、「同じ場所で何を感じ、何に心が動くか、自分でも楽しみにしている」と意気込んだ。
2日には同クリニック主催の壮行会を兼ねた下野さんの講演会があった。下野さんは、過去の任地で見た宗教による男尊女卑を背景にした死産でも悲しまない家族の姿を紹介。「大切な命を神にゆだねる前に、まずは自分で命を守るための最善の努力をすべきと考えていたが、そこが通じずにジレンマだった」と振り返った。
平和で安全な妊婦に優しい日本の出産環境の再認識を促した上で、「パキスタンも宗教色の強い国。宗教は生活の一部で生きるための心のよりどころ。住民が大事にする価値観と母子の命が守られる両立の道があるのか、しっかりと向き合いたい」と述べた。
同クリニックでは「下野さんの話は心に響き、産科の原点に立ち返る。私たちは目の前の妊婦さんが安心と笑顔でいられる環境づくりに努め、下野さんが活躍し、再び話を聞ける日を心待ちにしたい」とエールを送った。
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