半年ぶりに診察を再開した平林医院のスタッフ。(前列左から)美智瑠さん、直人さんの写真を抱く郁子さん
長野県岡谷市本町の平林医院が6日、半年ぶりに診療を再開した。昨年12月まで診察を続けた平林直人院長=享年(72)=が今年2月に亡くなり、惜しまれながら閉院したが、長女の新行内美智瑠医師(35)=東京都渋谷区=が週1回、岡谷に戻って診察を行う。オンライン診療という新しい医療の形も検討しており、「父の思いを引き継いで患者さんと向き合っていきたい」と意気込んでいる。
同医院は1951年、美智瑠さんの祖父平林三之助さん(故人)が開院。直人さんは東京医科大学を卒業後、同大学病院に勤務したが、三之助さんの急逝を受け同医院を継承。美智瑠さんが小学2年の時に脳出血に倒れたが懸命のリハビリで復帰し、巡回健診や産業医、学校医もこなした。昨年12月まで診察を続けた後、肺炎が悪化し、今年2月24日に亡くなった。
自宅と診療所がドア一つでつながっている環境で幼少期を過ごした美智瑠さん。父と同じ大学に進み、卒業後は父が在籍した糖尿病代謝内分泌科(第3内科学)に入局した。順天堂大学形成外科助教の新行内芳明さんと結婚し、妊娠・出産を経て、現在はチームメディカルクリニック(東京都)に勤務。父の体調を気遣い実家の医院を手伝うこともあったという。
直人さんの死後、美智瑠さんは2人の娘の育児と仕事を両立しながら、平林医院の診療を継続する方法を模索。保育園に預けた子どものお迎え時間なども考慮し、診察は月曜または火曜の週1回、時間は午前9時30分から午後1時までとした。今後は東京と岡谷をつなぎ、画面上で診察や薬の処方を行うオンライン診療にも取り組む考えだ。
6日はJR新宿駅午前7時発特急あずさの始発に乗り、午前9時20分に岡谷駅に到着。数人の診察を終え、岡谷駅午後1時27分発の特急あずさで東京に戻った。あいにくの雨模様だったが、開院時間には患者2人が訪れ、診察を受けていた。会社経営の男性は「親の代からのホームドクター。データの蓄積があり健康状態を分かってくれている。ありがたい」と喜んだ。
直人さんをかかりつけ医とした地域住民は300~400人いたという。妻の郁子さん(70)は「主人は天国から『ありがとう。でも、無理しなくていいからね』と言っていると思う。主人や患者さんの思いを尊重して、本人から言ってくれた気持ちがうれしい」と目頭を押さえた。
美智瑠さんは「父は病に倒れても不死鳥のごとくよみがえってきては診察を毎日やり、最期まで患者さんを心配し続けた。父の医師としての思いが報われるように頑張りたい」と語り、「やってみないと分からないこともありますが、できることでお役に立てれば」と笑顔を見せた。
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