伊藤さん宅の居間のこたつの中で渦巻き状になっているホース。中には温泉が流れており、洗濯物の乾燥にも役立つ
自宅内に巡らせたホースに温泉を流して室内を温める生活の知恵が長野県諏訪市内で今も息づいている。エアコンやファンヒーターなどの暖房器具が普及する中、温泉で室内を温めるのはホース内の定期的な洗浄などの苦労もあるため、取りやめる家庭もあるが、自然の恵みを生かした生活の知恵として利用し続けている家庭もある。
諏訪市小和田の伊藤文夫さん(74)は温泉で暖を取る利用者の一人。温泉が出る風呂場の蛇口に約80メートルホースを取り付けて流し、廊下、居間、書斎を経由して風呂場に戻している。蛇口から出る温泉の温度は76度。居間ではこたつの中で渦巻き状にしており、足を入れるとじんわりと暖かい。洗濯物の乾燥にも使っている。居間から廊下をはさんで反対側の書斎にも渦巻き状に巻き、らせん状の金属筒内を巡らせた後、風呂場に戻している。金属筒はまるでオイルヒーターのようだ。
ホース内に定期的に水を流して洗浄し、温泉の成分が固まって詰まるのを防ぐなど維持の手間もかかるが、伊藤さんは「居間や書斎では、とても寒い日でなければ暖房器具を使わずに一日過ごせる。じんわりと温まるため柔らかな 暖かさは体にもいいような気がする」と話す。毎年10月から4月まで活用するという。
伊藤さんは現在地に家を構えて今年で39年。家を建てた当時は、近所では当たり前のように温泉を家庭内に引き入れていたという。ただ、ホース内の洗浄の手間や家電製品への影響の心配などから取りやめる家も増えていると伊藤さんはみている。「温泉を生活に生かす生活の知恵は温泉が豊富なこの地域の文化だと思う。そうした文化を残すためにも私自身はできる限り使い続けていきたい」と話していた。
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