地域の人々の努力でたくさんの花を付けた車山肩のニッコウキスゲ。種子の持ち去りが問題になっている=2021年7月16日
長野県諏訪市にある霧ケ峰のシンボル、ニッコウキスゲの種子の持ち去りが問題となっている。インターネットでの転売も行われており、同種を守る人々が憤っている。霧ケ峰は八ケ岳中信高原国定公園に指定され、同所のニッコウキスゲは植物そのものや種子を許可なく持ち出すことができない「指定植物」に含まれる。さらに一帯は各牧野農業協同組合などの所有地でもあるため、いかなる植物でも無断で持ち去るのは犯罪行為。各地に拡散された種子は、移動先でも在来個体群との交雑という問題もはらんでいる。
◆株を増やす大勢の努力
霧ケ峰で事業を営む男性は、袋を手に群生地で種子を集めていた50~60代とみられる男を見つけ「人々がどんな思いで保護してきたのかをよく考えてもらいたい」と注意したことがある。男性は「ニッコウキスゲの種子はたくさんまいてもほとんど発芽しないため、株を定着させるのが難しい。ここまで増やすのに大勢の努力が費やされている」と話した。
◆小中生も協力 地道に苗植え
霧ケ峰ではシカの食害などが原因で、20年ほど前まで山肌を黄色く染めるほど群生していたニッコウキスゲが、電気防鹿柵内を除きほとんど見られなくなった。昨今では、多くの団体が山を昔の姿に戻そうと再生活動に取り組んでいる。例えば、小和田牧野農業協同組合では小中学生の手を借り、地道に苗植えを続けながら花を増やしてきた。
県霧ケ峰自然保護センター(諏訪市)の職員は、霧ケ峰産をうたうニッコウキスゲの種子がネットで販売されている旨を来訪者に伝えられたことがある。昔から同種を含むさまざまな植物の盗難が相次いでいるが、
近年ではその多くがネットでの転売目的ではないかとみている。アツモリソウなどは盗掘が原因で霧ケ峰からほぼ姿を消したとされる。被害を未然に防ぐため、自生地、種ともに公表されてない植物もある。
野生生物を生息地から持ち出し別の地に放すと、移動先の在来個体群との交雑を起こす恐れがあり、近年問題視されている。ニッコウキスゲは他地域の同種個体群との交雑に加え、ユウスゲなど絶滅の危険性が高い植物との種間交雑を起こす可能性もある。
◆種の絶滅につながる恐れ
兵庫県立大学の中濱直之講師=保全生物学=は「歳月を掛け地域特有の環境に適応してきた種の遺伝情報が損なわれ、病気や急激な気候変動などに弱い個体が生まれ広がる可能性がある。種の絶滅につながる恐れもあるため、専門家の助言なく、みだりに持ち出すのは厳に慎んでほしい」と呼び掛けている。
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