初めての繭の出荷に向け作業に励む竹内慶子さん(右)
駒ケ根市上赤須で漆器の製造販売を手掛ける竹内工芸研究所の竹内慶子さん(46)は今年から、同市中沢吉瀬にある蚕室や桑園を借り、養蚕に取り組んでいる。昨年、吉瀬地区で100年以上にわたり養蚕を営んできた農家が途絶えたのを機に「工芸の素材でもあるシルクの生産を後世につなぎたい」と一念発起。市内最後の養蚕農家から引き継いだ蚕室では飼育してきた春蚕が出荷の時期を迎え、升目状の蔟の中から繭を取り外す収繭作業が行われている。
竹内さんは昨年まで同市東伊那の駒ケ根シルクミュージアムで学芸員として勤務。専門は工芸分野だが、自身の先祖が大正から昭和にかけて地域の養蚕や製糸産業を支えた「組合製糸龍水社」の創立に携わっていたことを知り、かつて農村の暮らしを支える産業として発展した養蚕に興味を持ったという。
転機が訪れたのは昨年6月。市内で最後の生産者が亡くなったことで養蚕農家が途絶えてしまう危機に直面し、自身が引き継ぐことを決断した。関係者の了解を得て残された蚕室や蚕具、桑園を借りることになり、学芸員の職を辞して養蚕に挑んでいる。
1月からは桑園の管理、5月に蚕室の飼育環境を整備し、6月から春蚕約4万頭を飼育。岡谷市で養蚕に取り組む地域おこし協力隊員や養蚕経験者の協力も得て作業を進めている。蚕室では蔟から取り外した繭を一つずつ手作業で選別。11日にはJA上伊那に初めて出荷する予定だ。
「一度絶えてしまうと再生にはエネルギーが必要になる。伝統文化をつないでいきたい」と竹内さん。養蚕をなりわいとして地域に残し、その文化を「語り部として伝えることができれば」と話している。
[/MARKOVE]