藤森照信さんが設計した山越典子さんの宿泊施設「小泊Fuji」。今夏オープンに向けて準備が進む
長野県富士見町境の山越典子さん(42)が、茅野市出身の建築家、藤森照信さん設計の宿泊施設「小泊(こどまり)Fuji」を同町境に今夏オープンする。藤森建築の特徴を生かした自然と調和した建物で、手曲げの銅板屋根にはフジザクラが植わる。富士山や八ケ岳、南アルプス駒ケ岳が望める田園風景を見ながら、少人数でのんびりした時間を過ごしてもらおうと、開業に向けた準備を進めている。
三重県出身の山越さんは、東京の服飾学校を卒業後、アパレル会社に勤務。当時から友人を家に招いて、食事を出すのが好きだった。1998年に安曇野市へ移住。学生時代に藤森さんの代表作「高過庵」などに魅了され、2010年に茅野市で開かれたワークショップにも通った。
骨髄移植のドナーになったのを機に「本当にやりたいことをしよう」と思い、「憧れの藤森建築で宿泊施設を開く」と決めた。設計を依頼する手紙を何度も出したが、「なかなかうんと言ってもらえず」、了承を得るまで3年かかった。
建物は約4000平方メートルある、2段に分かれた小高い丘の下段に立つ。クラウドファンディングで資金を集め、昨年12月中旬に着工した。協力者や地域住民と一緒に、壁材にする焼杉や銅板を曲げる体験会も開いた。「みんなで作り上げる面白さがある」と話す。上段は地域住民や見学者が自由に出入りできる交流の場にしたいと計画している。
土手からせり出した建物の外観はほぼ完成。先端にあるデッキからは、一面に田んぼが広がり、「海に浮かぶ船のよう」と笑顔を見せる。1日1組限定で、最大5人程度が泊まれる。キッチンやリビングがある居住空間と寝室は別になっている。
思い立ってから今年で13年目。「頭の中にあったものが外に飛び出してきた。毎日のように見に来てます」と山越さん。現在は銅板が輝いているが、経年変化で落ち着いた色に変化するという。「建った時がピークではなく、使う中でよくなる。そこにあるのが自然になった時が完成。多くの人の居場所になれば」と開業を楽しみにしている。
[/MARKOVE]