故・武藤雄六さんが収集した刀の鍔。富士見町歴史民俗資料館の展示ケース内に収められている
長野県富士見町井戸尻考古館の初代館長を務め、今年1月に91歳で亡くなった武藤雄六さんが所有していた民俗資料や古美術品など242点が今月、町に贈られた。寄託資料としてこれまで同館併設の町歴史民俗資料館で保存、公開してきたが、武藤さんの遺志に従って遺族が寄贈した。情熱をかけて収集した貴重な民俗資料が館内の至る所で輝きを放っている。
在野の研究者で、町内にある数々の遺跡を中心となって発掘、調査した武藤さん。土器や石器の用途研究、文様の解読を精力的に行い、縄文時代に農耕が行われていたとする縄文農耕論の立証に尽力した。1965年に町職員となって考古館の開設(74年)を主導し、館長時代は資料館の開館(86年)に携わった。
寄贈されたのは、農具や民具、大工道具、武具、古代中国の銅鏡など。井戸尻考古館の前館長で、資料館職員の樋口誠司さん(65)は「考古学のみならず幅広い分野に精通していた。鏡や刀剣が特に好きだった」と回想する。室町~江戸時代の鍔(つば)、目貫(めぬき)など金銀象眼の刀装具は展示ケース内に整然と並び、ひときわ目を引く存在となっている。
資料館の開設に向けても資料集めに東奔西走。2018年の歴史講座で講師を務めた際には、「収集がぎりぎり間に合った」と苦労を明かしていた。いまは見ることのない農具や民具。樋口さんによると、貴重な民俗資料を消失してはならないと、集落の廃品回収の場にも頻繁に足を運んでいたという。
井戸尻考古館2代目館長の小林公明さん、3代目の樋口さん、現館長の小松隆史さん-。弟子でもある3人が中心となって資料を整理していったが、「退職後も、ほいほいと品を持ってきては館内に置いていかれた。確実な物だけで242点であり、こればかりではないんですよ」と樋口さんは目を細める。
町は今月、武藤さんを町政功労者として表彰した。樋口さんは「地域に即した物、手の届かない貴重な品ばかり。武藤さんの苦労や功績をたたえ、町の歴史をより多くの人に知ってもらえるよう、品を変えながら展示していきたい」と話している。
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