北澤工業(後の東洋バルヴ)で東南海地震を経験した小川哲男さん(左)を取材する奥山加蘭さん=昨年10月23日、茅野市ちの
戦時下の1944(昭和19)年12月7日に起きた東南海地震の真相を研究する信州大学教職大学院自然地理学研究室の奥山加蘭さん(24)=長野県岡谷市山手町=が、諏訪湖周の地震体験者への聞き取りやアンケートで証言を掘り起こし、位置情報を含めた被害状況を明らかにした。奥山さんは「過去と現在とでは土地の利用状況が違うが、地形条件や地下地盤は変わっていない」とし、調査結果を諏訪地域の防災に役立ててほしいと願っている。
奥山さんは、小学3年時に岡谷市で起きた「平成18年7月豪雨災害」を目撃。大雨で学校が休みになり、友人が避難生活を送る姿を見て、自然災害や防災に関心を持った。大学4年時、諏訪地域の地震に関わる卒業研究を模索し、戦時下の情報統制で詳細が分からない東南海地震の被害を復元する研究に着手した。
2019年から新聞記事や文献、学校記録などの資料収集を始め、20~21年には湖周3市町の80歳以上の計1万3777人を対象にアンケート調査を行った。郵送や回覧板で「どこに住んでいたか」「どんな揺れだったか」「周りの様子は」など7項目を尋ね、2697人(19.6%)から回答を得た。うち有効回答数は974件(36.1%)。聞き取り調査は3年間で約150人に及んだ。
調査結果によると、被災地として知られる諏訪市だけでなく、岡谷市や下諏訪町を含めた湖周全体の被害が浮き彫りになった。被害は湖畔で大きく、岡谷市では湊や諏訪湖付近、下諏訪町では四王周辺で被害が目立つ。諏訪市はJR上諏訪駅西側や城南、豊田や中洲で被害が大きかった。
一方、被害が軽微だったり、なかったりする地点もあり、各地で被害の程度に差が見られた。扇状地と平野部でも被害差があり、岡谷市、下諏訪町は扇状地の被害が小さいが、諏訪市は扇状地でも比較的被害が大きい。要因としては地形条件や地下地盤の影響を指摘。各市町が発行するハザードマップの被害想定と似通っているという。
報告書には、「四つん這いになって地面にしがみついた」(下諏訪町赤砂)「1階がつぶれて2階が落ちた」(諏訪市湖岸通り)など具体的な証言とともに建物や地盤の被害を地図上に示した「被害復元図」を掲載した。どこで、どのような被害があったのかを明らかにしている。
奥山さんは「今までにない質と量のデータが収集できた。東南海地震の記録を諏訪地域の方々と収集できたことは私の誇り。地域の知識として共有されるよう今後も活動していきたい」と話した。
報告書は湖周3市町や協力を得た学校に寄贈した。奥山さんは4月から県内学校の教壇に立つ。「自分が住む地域の危険や安全に気付けるような子どもを育てたい」と防災教育に意欲を燃やしている。
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