橋本政屋の土蔵「力蔵」の改修を喜び合う当主の長崎さん(左)と、改修を行った高木さん=下諏訪町髙木
長野県下諏訪町高木の甲州街道に面した「橋本政屋」は、江戸時代後期の面影を残す茶屋(料亭)跡だ。コロナ前は大型観光バスでツアー客が訪れるなど甲州街道歩きの観光スポットとして人気を集めていたが、現在は一般公開を見合わせている。当主の長崎正彦さん=同町高木=はこの休止期間を利用し今春、傷んでいた土蔵「力蔵」と土間などを改修した。後世に歴史ある建築を伝えていきたい-と、思いを強くしている。
「力蔵」は明治初期の作と伝わり、蔵の両扉と上部には漆喰を使って立体的に描いた浮き彫り「鏝絵」が施されている。左に亀、上部に白龍、右に鯉が表現されている。着色はなく、漆喰そのままの白一色だ。龍の目にはガラス玉が入り、足には黄金の球体がにぎられている。
言い伝えによると、昔の旅人やかご屋たちは街道の往来時に必ずこの土蔵に立ち寄り、手を合わせて拝んだ。蔵の龍、亀、鯉の頭文字と、拝む自らの「手」をつなげると、「カ」「リ」「テ」「コイ」となり、「力が借りられる」として開運の蔵と信じられていた。旅人たちは茶屋で力を付け、中山道の難所「和田峠」へと向かったという。
今回の改修では、漆喰のなまこ壁の塗り替えや欠損部分を補修した。壁の下地や家紋を黒く塗り直し、コントラストが際立つようになった。鏝絵は汚れを丁寧に除去。土間も土を入れ替えて丈夫にした。外観を飾る洋風のガス灯は下部の支え部分を塗り替えた。
改修は4月から始まり6月末までに完了。改修を担当した建設業の高木秀貴さん(44)=同町高木=は「当時の風合いを損ねないように気を使った。手を掛けて作った職人たちの思いを感じながら作業した。歴史ある建築の修復に携わることができて職人としてうれしい」と話した。
長崎さんはコロナ収束後には一般公開や貸しスペースを再開し、町の観光振興にも貢献したい考え。「時代は移っても変わらない歴史の風情をここで共有していきたい。交流の場として、一人ひとりの心に残る思い出の場にもなれば」と話している。外観の見学は自由。
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